ゲームには様々なジャンルが存在する。中でも自分が好きなのが「メトロイドヴァニア」に分類される作品だ。『メトロイド』『キャッスルヴァニア』と似たゲーム作品の総称である。
ただ…この「メトロイドヴァニア」という言葉、定義がメチャクチャ曖昧だ。
ゲーマーの間で自然発祥した用語で、特にコレ!といった定義が無く、どういうゲームを「メトロイドヴァニア」と呼ぶべきか…悩ましい部分があるのだ。ネット上の紹介記事・動画を見ると、自分の解釈とは違った説明も多々見られる。
そこで今回「自分としてはこう考えるけど、どうだろう?」という問題提起的な意味合いも含めて「メトロイドヴァニア」に対する私的解釈をまとめてみた。あくまで個人の見解である点に留意しつつ、読み進めて欲しい。
「メトロイドヴァニア」とは?
まずは「メトロイドヴァニア」というワードについて。
冒頭でも触れた通り、任天堂の『メトロイド』と、コナミの『キャッスルヴァニア (悪魔城ドラキュラ)』…両タイトル名を組み合わせた造語になる。この2大タイトルの詳細は後ほど。
語源については後述するが、現在は『メトロイド』『キャッスルヴァニア』とよく似た「探索型2Dアクションゲーム」全般を指すジャンル名として定着している。
ザコ敵軍団を豪快にブッ飛ばす『戦国無双』と似たゲームを「無双系アクション」などと呼ぶが、感覚的にはアレに近い。具体的なタイトル名を引き合いに出した方が、ゲーム内容の説明がしやすい!という理屈だ。
元々 海外ゲーマーの間で使われていた用語なのだが、最近は日本のゲーム界隈でも目にする機会が増えた。ゲームメディア記事で取り上げられ、そこから一気に普及したのだと思われる。
この「メトロイドヴァニア」だが…ジャンル愛好家が意外と多い。
カルト的な人気を集めていて、PCゲーム販売サイト「Steam」では専用の検索タグが存在するほど。勿論、こうした根強い人気には理由がある。
「メトロイドヴァニア」の魅力は、"探索" を重視した奥深いゲーム性にある。広大なマップを探索して手掛かりを収集、謎を解いて次のエリアに進む!といった具合に、アドベンチャー性が強いのが特徴だ。
通常の2Dアクションゲームは、区切られたステージを順番にクリアしていく「ステージクリア型」がメジャーかと思う。『スーパーマリオ』『ロックマン』のように、ゴール地点・ボス撃破などを目指す定番のスタイルである。
だが「メトロイドヴァニア」作品は、往々にして "ステージクリア" という概念が無く、シームレスにゲームが進行。迷路のようなマップを何度も行ったり来たりして、エンディングを目指すのだ。かなり長丁場なゲームと言える。
ゲーム開始時の主人公はアクションが少なく、行動範囲も限定される。とにかく非力で、その辺のザコ敵を倒すのも一苦労。
だが、マップをくまなく探索していると、アイテム取得・パワーアップなどのイベントが発生。拾った鍵で扉を開けたり、ハイジャンプで障害物を飛び越えるなどして、これまで行けなかった場所にも段階的に進めるようになる。
次の目的地が分からず、迷う場面も多々あるが…それだけに、突破口を見つけた時の快感は凄まじい。
探索がステータス強化・行動範囲の拡大に直結するので「ドンドン先に進みたい!未踏破のマップを埋めたい!」という欲求に駆られる。脱出ゲーム的な楽しさがあるのだ。
最初は貧弱だった主人公も、ゲーム進行に合わせて能力が増えてゆき、最終的にステージを縦横無尽に駆け巡る最強キャラに進化する。自身の成長を直に感じられるのも「メトロイドヴァニア」の良さと言えよう。
豊富な「やり込み要素」も見逃せない。
「アイテム回収率」「マップ達成率」に代表される実績、特定条件で解禁される諸要素、隠しボスなどのコンテンツが盛り沢山。
一度クリアするだけでは飽き足らず、すべての実績を達成したくなり、繰り返し何度も遊びたくなる中毒性がある。初見プレイ時には散々迷って大変だが…要領を掴めばサクサク進めるので、2周目以降は結構ラクだったり。
"未開の地を冒険する楽しさ" と、"末永く遊べるコスパの良さ" を両立した最強のゲームジャンル…それが「メトロイドヴァニア」なのだ。
- 『メトロイド』『キャッスルヴァニア』に似た2D探索アクションゲームを「メトロイドヴァニア」と呼ぶ!
- 広大なマップを探索して、行動範囲を広げていくゲーム性!
- やり込み要素が豊富で、繰り返し何度も遊べる!
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「 メトロイドヴァニア」の歴史
「メトロイドヴァニア」という、ジャンル名にまで昇華された2大タイトル『メトロイド』『キャッスルヴァニア』だが…厳密にみると、両者の開発コンセプト・ゲーム内容は結構違う。
本項では2大タイトルの歴史を振り返り、両者の違いを見比べながら、一大ジャンル「メトロイドヴァニア」の成り立ちについて考察したい。
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苦肉の策で生まれた『メトロイド』の探索性
まず、自分が愛してやまない『メトロイド』から紹介しよう。
シリーズ第1作目となるファミコン版『メトロイド』は、1986年の夏に発売された。今から30年以上も昔の話である。
初代『メトロイド』は、2D探索アクションの元祖!といっても過言ではない。
主人公「サムス・アラン」を操作して、広大な地下迷宮を冒険。壁を壊して道を切り開き、アイテムで能力を強化しながら、行動範囲を広げていく。「探索アクション (≒メトロイドヴァニア)」というジャンルを開拓した、偉大な先駆者なのだ。
だが…こうした "探索性" は、開発初期からコンセプトとして構想されていたワケではない。様々な要因が重なって、偶然もたらされたゲームデザインだった。
『メトロイド』制作プロジェクトは、当時 任天堂に入社して間もない、新人デザイナー2名によってスタートした。ほとんど開発経験が無い新入社員が「お前らだけで新作ゲームを作れ!」と命じられたのである。無理があるだろ!
── 話は前後しますが、そもそもファミコンディスク版の『メトロイド』はどういう動機で作られたのですか。
坂本:
実は『メトロイド』は僕が思いついたゲームではないんです。当時、開発一部でもディスクシステムの新タイトルを作ることになったんですよ。そこで、新人2人に企画を任せて、僕は違うゲームを作っていたんですね。
当時はファミコン最盛期。ゲームが飛ぶように売れる黄金時代だった。そのため、任天堂社内では「ソフトを大量に供給する」ことが急務となり、開発プロジェクトが乱立。新人にゲーム制作を全部任せる!なんてことも珍しくなかったらしい。
新人2名は最善を尽くした。デザイナーとしての経験を活かし、宇宙を舞台にしたSFアクションゲームを作ろうと、暗中模索の努力を続けたのだ。
だがやはり、ノウハウの無い初心者には荷が重過ぎたのだ。プロジェクト開始から約10ヶ月後。仕上げのためにベテラン社員が現場に合流した際には…『メトロイド』は全く未完成の状態だった。
── で、坂本さんたちが合流したとき、ゲームはどの程度できていたんですか?
坂本:
正直に言うと、何もできていなかったんです(笑)。
── ああ・・・(笑)。
どこに行っても同じ柄の背景が続いていて、どこに行っても同じことしかできないような状態だったんです。キャラクターが動くだけで、ゲームデザインがまったくできていなかったんですね。
主人公「サムス」を動かすプログラムは完成していた。だが、肝心のゲームデザインが固まっておらず、無音で同じ背景が延々と続く…というテスト段階止まり。コレでは商品として売り出せない。
しかし…時間は待ってはくれない。『メトロイド』の発売日は既に決まっていたので、無理矢理でもゲームを完成させる必要があった。納期まで残り3ヶ月!!どうすんだ!?
そこで導入されたのが、あの "探索性" だった。
新しい要素を追加する余裕は無い。そこでベテラン開発陣は、既存のオブジェクト・プログラムを徹底的に再利用。結果、迷路のようなマップを探索する!という独自のゲーム性が生まれたのだ。
『スーパーマリオ』のような「ステージクリア型」にすると、ユーザーの満足度を高めるためには、ギミック満載のステージを大量に用意する必要がある。コレでは時間がいくらあっても足りない。
だが、同じマップ構造を使い回し、それを往復させる「探索型アクション」にすれば、ステージを大量生産する手間が省ける。コスト削減にも繋がる妙案だった。
さらに、一部の壁や床を壊せるようにして、隠し部屋を探し出す "謎解きゲーム" に仕立て上げた。ブロックの当たり判定を弄るだけで済み、凝ったギミックは必要無い。省エネ的発想である。
坂本:
新しい仕様を入れる余裕がないけど、要素は足りない。で、背景の柄は同じだけど、ヒットチェック (当たり判定) だけ外した部分を作っておくと、隠し通路になる。同じ方法で、見た目には溶岩が煮えたぎっているけど、飛び込んだら意外と下に行けたとか。
『メトロイド』は、ある種リサイクル的な思想で作られているんですね。限られたパーツを使い、みんな総掛かりでやったから、いろんな人のいろんな声が反映されているんです。
そんな感じで『メトロイド』は、苦肉の策で導入した "探索" が功を奏したゲームだった。多少荒くて不親切な仕様が目立つのも、こうした事情を踏まえれば納得できる。
むしろ、たった3ヶ月でゲームを完成させた『メトロイド』開発陣の手腕に敬意を払うべきだろう。短期間で作ったとは思えない完成度で、意外と楽しく遊べるのだ!
しかも『メトロイド』は、遊び手が末長くゲームを楽しめるよう、コスパまで考慮した設計となっていた。
ゲームの舞台がアーケードから家庭に移り始めていた80年代後半、ユーザーが新作ソフトに強く求めていたモノは "自宅で長時間遊べるゲーム" だった。『メトロイド』開発陣はこうしたニーズに応え、プレイ時間を延ばすための工夫を仕込んだのだ。
──当時は「面クリア型」の小さなゲームが主流で、マップが大きいゲームって少なかったですよね。『メトロイド』の頃は、少し前にあの『ゼルダの伝説』が出てましたよね。『ゼルダの伝説』を見て「でっかくしなきゃ」と思ったんでしょうか?
坂本:
そうではなかったです。ただ、当時よく営業から聞かれたのが「これって何時間遊べるの?」でしたね。
面クリ型だったら、ステージがたくさん入ってるほうが良いとか、総じてプレイ時間は長いほうがいいと判断されていました。ゲームのコストパフォーマンスを問われる時代でしたね。
クリア時間によって演出が変化する 「マルチエンディング」 は、特に有名な要素だろう。
普通に遊ぶと相当な時間がかかる『メトロイド』だが…短時間でクリアすると、エンディング画面でサムスがスーツを脱ぐ。このとき初めて、サムスが女性だと判明する。
あっ!と驚く "ご褒美" を用意して、同じゲームを何度も遊ぶよう誘導したワケだ。
サムスのエッチな水着姿を見たいがために、躍起になったゲーマーは数知れない。"探索" との相性も抜群に良く、総プレイ時間がグッと長くなり、コスパも良くなる!という秀逸な工夫だった。
他にも色々語りたい『メトロイド』開発裏話だが…長くなるので割愛。気になる人は以下の記事を読んで欲しい。オモロイド。
好評を博した『メトロイド』は、その後シリーズ化され、続編タイトルが数多く制作された。最大の転換点となったのは…やはり第3作『スーパーメトロイド』だと思う。
アクション・操作性の改善、ゲーム内で地図を見られる「マップ機能」の導入などで、探索がより快適に。重厚なストーリーと探索自由度の高さで、多くのゲーマーを虜にしたのだった。
そんな感じで、粗削りだった『メトロイド』の "探索性" は、シリーズを追うごとに、より洗練・進化していったのである。後発の「メトロイドヴァニア」作品に与えた影響は計り知れない。
- 『メトロイド』は、2D探索アクションの先駆者!
- 最初は粗削りだった "探索性" が、段々と洗練されていった!
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伝統を破壊した『キャッスルヴァニア』
続いて『キャッスルヴァニア (悪魔城ドラキュラ)』である。
まず念頭に置いて欲しいのが、本シリーズの2Dアクションが「ステージクリア型」「探索型」の2種類に大別できること。
「ステージクリア型」は、主にシリーズ黎明期の作品が該当する。『スーパーマリオ』のように、1本道のステージを順番に攻略していく王道的スタイルだ。
実はシリーズ第1作目『悪魔城ドラキュラ』は、先に紹介したファミコン版『メトロイド』と同期。1986年の秋に発売されている。
ただ、この頃はまだ 「ステージクリア型」が主流で、所謂「メトロイドヴァニア」的作風ではなかった。広大なマップを冒険する「探索型」の登場は、だいぶ後の話になる。
「探索型」の出発点となった作品は、1997年発売のPlayStationソフト『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』だ。本格的に探索要素がフィーチャーされ、1つの完成形を提示した革新的タイトルである*1。
本作の制作に携わり、その後『探索型ヴァニア』の発展に貢献した立役者が、かの有名な五十嵐孝司。"IGA"の愛称で親しまれている人物だ。
IGA氏によると『月下の夜想曲』開発チームは歴代作品との差別化のため "ゲームの寿命 (=クリアまでの所要時間) を延ばす" こと、"敷居を下げて遊びやすくする" ことの、2つの目標を掲げていたという。具体的に説明しよう。
まず前提として知って欲しいのが、初期の『ステージクリア型ヴァニア』がメッチャ難しい!ということ。
敵の情け容赦ない攻撃!穴に落ちると即死!死ねば最初からやり直し!といった具合に、超絶ストイックな高難易度ゲームとなっている。頼りになるのは自分の腕だけだ。
何故こんなに難しいのか。それは…ゲームが簡単過ぎると短時間でクリアされてしまうからだ。
昔のゲームは容量が少ないなどの技術的制約が多く、現代のゲームと比べてボリュームが少なかった。この "ボリュームの少なさ" を誤魔化すため、難易度を極端に吊り上げ、何度もリトライさせてゲームの寿命を引き延ばす!という手法がよく使われていたのだ。
ただ、この "難易度を上げてコスパを高める" 手法は、ゲームが得意な上級者には効果が薄い。上級者はすぐ操作に慣れ、短時間でサクッとクリアしてしまう。こうなると、コスパが良いとは言いがたい。
だからと言って、上級者に配慮して難易度をドンドン上げていくと、最終的に "初心者お断り" の激ムズゲーと化してしまう。新規ファンを獲得できず、先細って衰退していくだけだ。両立が難しい。
そこで…IGA氏を中心とした開発陣は、ある任天堂タイトルを参考に、この問題を解消しようと考えた。
ここで『メトロイド』…かと思いきや、そうではない。『ゼルダの伝説』である。
IGA氏:
当時の開発スタッフは、もちろん『メトロイド』が好きな人も多かったんですけれど、それ以上に『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』が好きな人が多かったですね。
『ゼルダ』のように探索をしながらいろいろな場所を行ったり来たりする内容にすれば、『ドラキュラ』も「もっと長く遊べるよね」という話を彼らとしていました。
ですので最初は「『ゼルダ』ライクなゲームを作ろう」と言っていたんです。結果的には、探索の要素をサイドビューアクションの『月下の夜想曲』に落とし込んだわけですが。
引用:“ヴァニア”元プロデューサー・IGA氏が「メトロイドヴァニア」を語る──『サムスリターンズ』から受けた衝撃と新作“IGAヴァニア”に注ぎ込んだ想い【インタビュー】
『ゼルダの伝説』をご存知の方は多いだろう。主人公「リンク」を俯瞰視点で操作して、アイテムを集め、ダンジョンの謎を解き明かす。今なおシリーズ展開が続く傑作アクションADVゲームだ。
『ゼルダ』のような探索・謎解きを導入すれば『ヴァニア』の寿命を劇的に延ばせる!と、IGA氏らは考えた。マップを何度も往復するゲームにすれば、無理に難易度を上げずとも、プレイヤーを長時間楽しませることが可能だからだ。
こうして完成したのが、広大なマップを探索する『月下の夜想曲』だった。『ゼルダ』の文法を2Dアクションに持ち込んだ結果…『メトロイド』と同じ「探索型」というスタイルに落ち着いたのである。
ここが重要なポイント。実は「メトロイドヴァニア」という言葉は、この『探索型ヴァニア』を指し示す俗称として生まれた。
従来の「ステージクリア型」と区別するため "メトロイドっぽいゲーム性のヴァニア" という意味を込めて、海外ファンがそう命名したのだ。最初はジャンル名ではなかったことになる*2。
「メトロイドヴァニア」の語が生まれた瞬間を記したUsenetの過去ログ。書いた本人はすっかり忘れていて、2014年に他からの指摘で気づいたそう。当初はあくまで『サークル オブ ザ ムーン』だけを指していて、ジャンルとして捉える意図はその時点ではなかったことが分かる。https://t.co/UVkuGeLxXj pic.twitter.com/tlXbvlmVtt
— hally (VORC) (@hallyvorc) 2021年7月14日
ただし、ルーツが別作品というだけあって『探索型ヴァニア』と『メトロイド』とでは、ゲーム性が結構違う。
『探索型ヴァニア』固有の特徴をまとめると、以下2点に集約できると思う。
- RPG要素による成長・戦略性
- 豊富な収集・やり込み要素
まず第一に「RPG要素」の存在が挙げられる。
『探索型ヴァニア』では、2Dアクションでは珍しく「レベル制」が導入されていて、敵を倒すと経験値が貰え、レベルアップで主人公が成長。レベルが高いほど強くなり、敵を簡単に倒せるようになる。
装備・アイテムの概念があるのも『探索型ヴァニア』ならでは。
ダンジョンで入手したり、ショップで購入した武器・防具を自由にカスタマイズできる。好みに合わせて装備を切り替え、自分だけの最適解を探ることが可能だ。MP消費スキルや使い捨ての道具もあり、幅広い戦術がとれる。
こうしたRPG要素は『メトロイド』には無い独自の強みと言える。選択肢が幅広く、アクションが苦手な人でも、時間をかければ絶対にクリアできるのだ。最強装備を身につけ、レベルを上げてゴリ押しすれば、勝率が格段に高まる。
どちらかと言うと『メトロイド』は "厳しい" ゲームで、プレイ時間の長さがクリアに直結する!という保証は無く、アクションが苦手だと詰むことも多い。その点『探索型ヴァニア』は、初心者でも挫折しにくい "優しい" 設計なのが見て取れる*3。
上級者には物足りない仕様だが…最低限のレベル・装備だけでゲームを進める「縛りプレイ」などで、自主的に難易度を調整することも可能。初心者〜上級者まで、幅広いユーザーが楽しめるよう設計されている。
IGA氏:
そうです。昔からのファンは「アクションゲームをプレイするなら、自分の腕を磨いてナンボ」だという考えがあるんですよ。
それに対して『月下の夜想曲』以降は、その考えとは正反対──RPG寄りのゲームを作りました。
個人的には難易度を選べるゲームはあまり好きではありません。ただ、遊んでくれた人全員にクリアしてほしいので、その苦肉の策としてRPG要素を入れたんです。
引用:“ヴァニア”元プロデューサー・IGA氏が「メトロイドヴァニア」を語る──『サムスリターンズ』から受けた衝撃と新作“IGAヴァニア”に注ぎ込んだ想い【インタビュー】
もう1つの差別点が「豊富な収集・やり込み要素」だ。ボリューム面で『メトロイド』を遥かに超えている。
例えば、踏破したエリアをパーセント表示する「マップ達成率」という指標。"地図を埋める楽しさ" を数値化して、能動的に探索を進めてもらおう!というアイディアだ。
この達成率だが…ステージ全体が恐ろしく広いので、100%にするのが難しい。コレが地味に悔しくて、しらみ潰しにあたりを捜索して、未踏破エリアを埋めたくなる。
他にも「モンスター図鑑」「アイテム図鑑」などの収集要素、クリア後に別キャラを操作できる「特殊モード」など、これでもか!というほど豊富なコンテンツを用意。プレイヤーの収集欲・好奇心を刺激して、ゲームの寿命を格段に延ばすことに成功している。
他にも『探索型ヴァニア』には、様々な工夫を凝らしてロジカルに組み立てられた要素が多い。気になる人は以下の記事を読むべし。
この「探索型」というフォーマットは『月下の夜想曲』以降のシリーズに脈々と受け継がれ、多くのゲーマーに愛されるようになった。
言うなれば、旧来の伝統をブッ壊して『キャッスルヴァニア』に新風を吹き込むことに成功したのである。ファン人口の拡大に大きく寄与したのは間違いないだろう。
- 元々『キャッスルヴァニア』は、2D探索アクションではなかった!
- 『月下の夜想曲』以降、段々と「探索型」の作品が増えた!
- 『探索型ヴァニア』のことを「メトロイドヴァニア」と呼ぶように!
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本家「メトロイドヴァニア」の衰退
"探索" を軸にした奥深いゲーム性と、驚異的なコスパの良さで、多くのゲーマーを虜にした『メトロイド』『探索型ヴァニア』だが…2010年代に入った途端、どちらも新作ソフトが全然作られなくなった。
決して需要が無かったワケではない。両作品ともファミコン時代から続く人気IPで、世界中に大勢のファンがいる。
しかし…ここ十数年で発売されたシリーズ新作は、片手で数えられる程度。一体何故なのか?
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投資対効果の低さ
コレには様々な要因が絡んでいると推測できる。真っ先に思いつくのは『メトロイド』『探索型ヴァニア』共通の問題点…「投資対効果の低さ」だ。
「メトロイドヴァニア」は開発コストが高い。多彩なアクション、段階的に行動範囲が広がるマップ、プレイヤーを飽きさせない収集要素…これらをバランス良く組み込む必要があるからだ。
通常のアクションゲームと同等かそれ以上に、絶妙なレベルデザイン・入念なデバッグ・調整作業が必要になる。開発に2~3年かかる!なんてこともザラだ。
── いつごろから製作をはじめたんですか。
大澤:
3年前の秋くらいかな?結局ゲームの形ができてくるまでに、1年半くらいかかってますね。
坂本:
とにかく形がないと、ゲームのボリューム感がつかめないですからね。アクションゲームというのは、理屈だけではどうにも割り切れないところがあるんですよ。
大澤:
サムスのジャンプ力が変わっただけで、マップが全部オシャカになったりとか。
坂本:
基本のところはしっかり決めないと、作れないんですよ。
開発コストが高くても、相応の収益が見込めるのならば、作る価値はあるだろう。
しかし…『メトロイド』『探索型ヴァニア』共に、コアゲーマーが対象の作品のため、そこまで売上が振るわない!というのが実情だ。
具体的な数字を挙げよう。『スーパーメトロイド』が約140万本、そして『月下の夜想曲』が約127万本とされている。シリーズでも特に売上が良かったタイトルである。
だが、同期の名作ゲームには到底敵わない。『スーパーマリオワールド』が約2061万本、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』が約1500万本だ。北米の記録でコレだから、世界規模で見ればもっとあるハズ*4。
売れないゲーム開発に注力するよりも、より人気の高いコンテンツに投資した方がイイ!と考えるのは、企業として当然の判断だろう。どうしても優先度が低くなってしまうのだ。
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スマホゲームの台頭
さらに追い討ちをかけたのが「スマホゲームの台頭」である。
2010年頃から急速に普及した「スマートフォン」は、携帯性・利便性に優れたツールで、今や我々の日常生活に欠かせない存在となりつつある。そんなスマートフォンで遊べる「スマホゲーム」の登場は、業界に大きな衝撃を与えた。
ハードを購入する必要がなく、出先でも暇な時間にサクッと遊べる。こうした "手軽さ" がウケて、スマホゲームは急速にシェアを伸ばした。現在の市場規模は約1兆円、市場占有率は50%以上とまで言われている。
遡ること2000年代。任天堂は故・岩田社長が掲げた「ゲーム人口の拡大」を企業戦略に据え、直感的な操作が楽しめる新ハード「Wii」「ニンテンドーDS」を発売。
同時に社会人〜シニア層をターゲットにした『Wii Fit』『脳トレ』などの新機軸タイトルを売り出し、大ヒットを記録した。これまでゲームに興味の無かったユーザーに強く働きかけ、新たな顧客層の開拓に成功したのだ。
しかし…2010年代に入り、スマホゲームが頭角を現し始めると状況は一変。
任天堂が開拓したカジュアル層の顧客は、次第にWiiやDSで遊ぶのに飽きてゆき、目新しいスマホゲームへと流れてしまった。「ゲーム機を買って遊んで貰う」という前提が通用しなくなったのも大きい。
任天堂は負けじとWiiの後継機「Wii U」を発売するも…ソフトが少ない、新鮮味に欠けるなどの理由から売上が低迷。3期連続で営業赤字を計上するなど、経済的に厳しい状況が続いたのだった。『メトロイド』が作られなくなった最大の原因とみて間違いない。
一方『キャッスルヴァニア』を生んだコナミは、スマホゲーム市場にいち早く参入。『実況パワフルプロ野球』『遊戯王 デュエルリンクス』などのヒット作を連発して、上手く時流に乗ることに成功した。業績はすこぶる好調で、今やゲーム事業収益の大半をスマホで稼いでいる。
反面、かつてコナミの屋台骨を支えた家庭用ゲーム事業は見る影もない。世間の流れに合わせた結果、新作ソフトの発売本数が目に見えて減少している。
さらに2015年には、組織再編に伴う著名クリエイターへの冷遇、自社IPの杜撰な扱い…などが問題視され始めた。『メタルギア ソリッド』を手掛けた小島秀夫をはじめ、多くの人材がコナミを辞めて外部へ流出したのも、この頃である。
『探索型ヴァニア』を手掛けたIGA氏も、こうした影響をモロに受けた。2010年代に入ってからというもの、新作ゲームを全然作れなかったらしい。他のクリエイター達と同様、彼もまた2014年にコナミを退社している。
IGA氏:
世の中の流れがソーシャルゲームに向いてきていたこともあって、独立する前の3年間ぐらいは、結局何もゲームを出せませんでした。
僕自身、コンソールでゲームを長年作ってきたためか、操作中に自分の指で画面が見えなくなったりするタッチパネルだけの操作があまり好きではなく……。
ソーシャルゲーム自体を否定しているわけではないんですけれど──ゲームパッドで遊ぶゲームの開発にチャレンジしたかったんです。一応、操作性改善のため、スマホでもゲームパッドに近い仕組みも考えてはいたんですけどね。
引用:“ヴァニア”元プロデューサー・IGA氏が「メトロイドヴァニア」を語る──『サムスリターンズ』から受けた衝撃と新作“IGAヴァニア”に注ぎ込んだ想い【インタビュー】
…このような経緯で、開発コストの高さに世相の変化が追い討ちをかけ、本家「メトロイドヴァニア」は完全に沈黙してしまった。ファンにとって長く苦しい時代が続いたのである*5。
- 2010年代から『メトロイド』『探索型ヴァニア』新作が出なくなった!
- 対費用効果の低さ、スマホゲームの台頭が原因(と思われる)
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インディーズゲームでジャンルが再興!
新作がなかなか出ない "氷河期" に突入した『メトロイド』『探索型ヴァニア』だが…両タイトルの人気は非常に高く、続編を渇望する声は後を絶たなかった。
こうしたニーズの高まりを受けて活発化したのが、インディーズゲーム市場だった。
新進気鋭のクリエイター達が『メトロイド』『探索型ヴァニア』をリスペクトした作品を次々と開発。PCゲーム販売サイト「Steam」などに売り出し、コアな人気を集めるようになっていた。大手ゲーム会社の想像以上に、同ジャンルの需要は高かったのだ。
元々 "メトロイドっぽいヴァニア" という意味合いで使われていた「メトロイドヴァニア」という言葉が、探索アクション全般を指すジャンル名に変遷したのも、おそらくこの時期。それほど市場が盛況・多様化していたのだ。
そして嬉しいことに、賑わいを見せるインディーズ市場に刺激を受け、本家「メトロイドヴァニア」開発陣も対抗意識を燃やし始めたのだった。
坂本賀勇 (『メトロイド』の開発者) は、海外のインタビュー記事で「メトロイドヴァニア」について触れている。ジャンルが確立されるほど需要が高まっている事実を知り、本家である『メトロイド』新作の必要性を感じた!と語っている。
Sakamoto:
Yeah I’m well aware of…the abundance [of games in the] the Metroidvania genre. I know there are a lot, but I haven’t played them, it however, one thing I think we’ve learned from that is, there’s a thirst for that genre. People are excited about the genre, and so from a marketing stand point, understanding that this market exists, it’s been helpful to have all of those people clamoring for them. And it really solidified the ability of this desire to creating another 2D Metroid game.
そして開発されたのが、2017年発売の『メトロイド サムスリターンズ』だ。
十数年ぶりの2D新作で、ファンが長らく待ち望んでいた王道的な2D探索アクション。タイトルに違わず、"サムスの帰還" を思わせる原点回帰的な作風となっている。
『探索型ヴァニア』の生みの親であるIGA氏は、コナミを退社・独立した直後、ゲーム会社「ArtPlay」を設立。
クラウドファンディングで資金を募り、2019年に新作ゲーム『Bloodstained: Ritual of the Night』を完成させた。約4年の開発期間を経て、満を持してリリースした「メトロイドヴァニア」作品である。
『キャッスルヴァニア』とは無関係なインディーズ作品!という立ち位置だが、そのゲーム性は紛れもなく『探索型ヴァニア』そのもの。
マップ探索の楽しさ。レベルアップで強くなる主人公。どれも覚えのあるプレイ感覚だ。大人の事情で名前が違うだけで、実質シリーズ新作といっても差し支えない。
そして…久々に発売された本家「メトロイドヴァニア」は、両作品とも好評を博した。
『サムスリターンズ』は約56万本、『Bloodstained』は100万本越えと、売上面でも大健闘。爆売れ!とまではいかないが、やはりニーズは間違いなくあったのだ。
2つの源流を起点に、一大ジャンルに成長した「メトロイドヴァニア」…今後も我々ゲーマーを大いに楽しませてくれるに違いない。
本家シリーズ開発者も、同じ畑のインディーズ作品に対しては、好意的な姿勢を見せている。今後、鎬を削る良好な関係性が築かれることに、大きな期待をかけたい。
── 最近はインディーズで「メトロイドヴァニア」作品がたくさん出ています。プロのクリエイターとして、これらの作品をどう見ていますか?
IGA氏:
「プロとして」というのは難しいです。「俺の畑に来るなよ!」という気持ちはありますね。まあ、建前ですけれど(笑)。
僕はファミコンやスーパーファミコンの時代が大好きだったんですよ。
あの時代はそれこそ有象無象のゲームがたくさん発売されて、そのなかから自分の好きなものを選ぶことができましたよね。「買って失敗した」と思うこともありましたが、そういう状況も含めてすごく好きだったんですよ。
ですから「メトロイドヴァニア」に限らず、アクションだけでもさまざまなタイプのゲームが発売されていることに関しては、すごくおもしろいなと考えています。インディーズのそういう現状は、すごくいいと思います。
引用:“ヴァニア”元プロデューサー・IGA氏が「メトロイドヴァニア」を語る──『サムスリターンズ』から受けた衝撃と新作“IGAヴァニア”に注ぎ込んだ想い【インタビュー】
- インディーズゲームによって市場が再興!本家も復活!
- この頃から「メトロイドヴァニア」が、ジャンル名として使われるように!
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まとめ & オススメの「メトロイドヴァニア」作品
NKT。長く苦しい記事だった。まどろっこしい文章で申し訳ない。
今回 伝えたかったことを国語辞典風に要約すると、こういうことである。
【メトロイドヴァニア】[名]
❶ 『メトロイド』と似たスタイルの、探索型『キャッスルヴァニア』作品の俗称。海外ゲーマーによって命名された。
❷ 転じて『メトロイド』『探索型ヴァニア』とよく似た、2D探索型アクションゲームの総称・ジャンル名。現在はこちらが主流。
「メトロイドヴァニア」について紹介している記事は多い。だが…ジャンルの原点である『メトロイド』『探索型ヴァニア』の詳細、ジャンル確立に至った歴史的背景について言及しているレポートは少ないよなぁ…と常々感じていたので、自分なりの解釈をまとめてみた次第。
完成度が非常に高く、遊んでいて確かな面白さを感じるので、もっと売れても不思議ではないゲームジャンルだと個人的に思う。頼むからマジでもっと売れて欲しい。
(市場が活性化すれば、自分が好きな『メトロイド』も供給が増えるハズ…)
それから、私的オススメ「メトロイドヴァニア」作品レビュー記事を書いたので、気になる人は参考にして欲しい。Swicthで遊べる良作ゲームを紹介している。
最後に1つ謝らなければいけないことがある。こんなクッソ偉そうな記事を書いた自分だが…実は『探索型ヴァニア』はそんなに極めていない。
『メトロイド』の方は子供の頃からどっぷり浸かっていたのだが…『ヴァニア』の方は "怖くて難しい玄人向けゲーム" という印象が強く、全然遊んでいなかったのだ。おいおい!
今更になって興味が出たものの…時すでに遅し。旧作『探索型ヴァニア』(特にDS作品) はプレミア価格化が凄まじく、入手難易度がドンドン上がっている。中古ソフトでも1万円以上の売価で取引されているほどだ。たけぇ!!
ゲーム自体は超面白いと聞くので、いつか絶対に全作品をプレイする所存だが、お財布と相談しながら段階的に…という形になりそう。コナミが過去作の移植ソフトを、適正価格で販売してくれれば一番なのだが。
期待できなさそうだよなぁ…(・ω・`)
DSの『探索型ヴァニア』3作品を何とかゲットした。自分へのクリスマスプレゼントである。箱無し中古ソフトで合計2万円ほどかかった。たけぇ。
クリスマスプレゼントってのはな…自分で用意するモンなんだ pic.twitter.com/0BFXZL40vb
— わたりどりぃ (@Wata_Ridley) 2020年12月23日
他のシリーズ作品は、Wii Uダウンロードソフトなどで入手済み。コレでようやく、歴代『探索型ヴァニア』作品を履修する環境ができた。いずれ紹介記事を書き綴りたい。
*1:実は『ドラキュラⅡ 呪いの封印』など、コレ以前にも「探索型」っぽい作品は存在する。だが、マップを片手に探索を楽しむ「メトロイドヴァニア」的作風がプッシュされたのは『月下の夜想曲』が初めてだ。
*2:自分が敬愛するAngry Video Game Nerd ことジェームズ・ロルフ氏も『月下の夜想曲』レビュー回で言及しているので間違いない。
*3:コメントでご指摘いただいたが…『探索型ヴァニア』は難しい作品も多く、すべからく初心者に優しい!というワケではない。ただ、どの作品でも多彩な戦術を取ることが可能で、頭を使って工夫さえすれば、難しい局面もラクラク突破できるような神調整が施されている。そういう観点で見れば『メトロイド』よりも優しいのではないか?というのが、個人的所感。
*4:Video Game Sales Wikiの記述を参考にした。数字の正確性については議論の余地があるが…『メトロイド』『探索型ヴァニア』の売上が振るわないのは、残念ながら疑いようの無い事実だ。
*5:『探索型ヴァニア』に関しては、この時期に新作『ロード オブ シャドウ 宿命の魔境』が発売されている。ただ、歴代作品を手掛けたIGA氏は関与しておらず、海外製のゲームで従来と作風が異なる…などの理由から、評価は賛否両論。ちなみに『宿命の魔境』を手掛けたMercury Steam社は、後に『メトロイド サムスリターンズ』の開発にも携わっている。