「腱鞘炎 (けんしょうえん)」をご存じだろうか。手の使い過ぎが原因で、手首や指が痛くなったり、動かしづらくなる深刻な病気である。
現代人はPC・スマホをよく使うので腱鞘炎になりやすいと言われる。とりわけ、イラスト制作が趣味のデジタル絵描きは腱鞘炎になりやすい!!
自分も一時期イラストの描き過ぎで腱鞘炎気味になり、手の痛みに悩まされていた。だが…色々と工夫をした結果、症状が改善された。今では快方に進んでいる。
今回はそんな自分が実践した、デジタル絵描き向け腱鞘炎予防・対策方法について書き綴りたいと思う。自分と同じ症状に悩む方には参考としていただきたい。
腱鞘炎について
腱鞘炎の発生メカニズム
人間の手の中には「腱 (けん)」と呼ばれる紐状の組織が通っていて、筋肉と骨を繋いでいる。人間が手指を自由に曲げ伸ばしできるのは、筋肉の収縮に腱が連動するおかげだ。
指先・手首などの要所で、腱が骨から離れないよう固定しているトンネル状の組織を「腱鞘 (けんしょう)」と言う。読んで字の如く、腱が収まる "鞘" である。
腱鞘の内側には滑液が染み出していて、摩擦抵抗を減らし、腱を滑らかにスライドさせる "滑車" のような役割を果たしている。普通に生活する上で問題は起こりえない。
だが、あまりにも手を酷使している人の場合、腱と腱鞘が擦れ合って炎症を引き起こし、痛みや熱感を伴う場合がある。コレが「腱鞘炎」の発生メカニズムだ。
軽度の炎症であれば自然治癒で回復する。しかし…手は日常的によく使うので、なかなか炎症が治まらない!というのが実情だ。
最初は違和感・動かしづらさを覚える程度だが…炎症が悪化すると患部に激痛が走り、手をロクに使えなくなってしまう。日常生活に確実に支障が出るし、イラスト制作なんて絶対無理。地味ながらも重大な病気なのだ。
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腱鞘炎かどうかチェック!
腱鞘炎になる人は、とにかく日常的に手を酷使している。以下の特徴に該当する人は発生リスクが高いとみて良いだろう。
- PC作業・デスクワークが多い
- スマホをよく使っている
- 書類の筆記作業が多い
- コントローラーでゲームを遊ぶ
- イラストを長時間 描いている
- ギター・ピアノなどの楽器を演奏する
- テニスなど、手首を使うスポーツが趣味
- 重い荷物をよく運ぶ
この特徴を見ると…デジタル絵描きの大半は普通の人よりも腱鞘炎になりやすいのが分かる。多分3つくらい該当するんじゃなかろうか。PC・スマホは必需品だし、ゲーム好きな人多いし。
自分が腱鞘炎かどうかをチェックしたい!という人は、以下の記事を確認しよう。親指~手首周辺が痛む「ドゲルバン病」と、指の曲げ伸ばしができなくなる「バネ指」の症状・チェック方法について解説されている。
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腱鞘炎の予防・対策
腱鞘炎が深刻化すると注射で炎症を抑えたり、手術で腫れた腱鞘を切除したり…といった、大掛かりな治療が必要になってくる。
…想像するだに恐ろしい!コワイ!
だが、ヒリヒリする程度の軽微な痛みであれば、薬や手術に頼らなくとも、個人レベルで腱鞘炎を予防・改善することが可能だ。以下、自分が実際に試した対策をご紹介したい。
なるべく動かさず安静!
腱鞘炎の効果的な予防・治療法は、なるべく手を動かさないこと。コレが鉄則。適度に手を休ませ、炎症の広がりを抑えることが重要だ。
イラストを描く人であれば、1~2時間に1回を目安に手を休めるのが理想。長時間の作業を避け、意識的に休憩を取れば腱鞘炎は悪化しない。
手首の痛み・指の動かしづらさ・熱っぽさなど、腱鞘炎の初期症状が出てきたら、すぐ手を止めて安静にしよう。軽微な炎症であれば自然治癒で回復するハズ。
日常的にPC・スマホを使う人は注意。キーボードタイピングやスマホのフリック操作は、想像以上に手指を酷使している。腱鞘炎の発生リスクが非常に高い。
利き手をなるべく使わない、キータッチを軽くする、スマホのスクロール操作に親指以外を使うなど、手指の負担を和らげる行動を心掛けて欲しい。後述のサポートグッズも活用しよう。
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手首サポーターを使う
絶対安静!と言っても…日々の生活を過ごす上で、利き手を長時間使わなければならない場面はどうしても出てくる。
そういう時に便利なのが、市販の「手首サポーター」だ。
手首周りをガッチリ固定して、無駄な動きを抑制。手の負担をグッと軽減できる。腱鞘炎の悪化を防ぎ、痛みを和らげる効果があるのだ。
かくいう自分は普段から「バンテリンサポーター (Mサイズ)」を愛用している。色々買って試してみたがコレが一番使いやすい。
保持力の強い構造でズレにくく、適度な締め付けで手首を固定できるので、腱鞘炎予防に最適。手先が出ているデザインなので、日常生活・イラスト制作にも支障を来たさない。デジタル絵描きに超オススメ。
価格は1,000円弱。布製なので洗濯して使い回すことも可能。コスパも良い感じ。ネット通販・薬局で購入できる。
ただし…安心だからと言って、24時間ずっとサポーターを身に付けるのは逆効果だ。手指の血行が悪くなり、腱鞘炎の回復が遅れる可能性がある。
部屋でくつろいでる時や就寝時など、利き手をそんなに使わない場面ではサポーターを外しておくのが無難と考える。過ぎたるは猶及ばざるが如し。気を付けよう。
※今回は割愛するが、ばね指の症状に悩まされている人は「指サポーター」を使うとイイかも。コチラも薬局・ネット通販で購入できる。
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テーピングで補強!
テーピングで手首周りを固定する方法も有効だ。手首サポーターと同様、炎症の悪化を防ぎ、痛み・不安感を軽減できる。
テープの巻き方は色々ある。絵描きの間で特に評判が良いのは、次のツイートで紹介されている方法だ。
このテーピング、
— たけなしのーと (@takenashinote) 2020年3月3日
絵描きさんに評判いいです。
近所の整体師さんにも「まぁいいんじゃない?」と言われたので大丈夫だと思います。pic.twitter.com/oWlmDVFAVI
親指の付け根にテープを3枚貼って、手首周りをバンドで固定するだけ。とっても簡単。軽微な症状であれば、コレだけでだいぶ楽になる。
テープの種類は何でもOK。自分が実際に使ってみて良かったのは、ニチバンの「キネシオロジーテープ (25mm幅)」だ。
圧迫感が少なく、皮膚を持ち上げて血行を良くする効果があり、自然治癒を促進してくれる。スポーツ向けの伸縮・撥水タイプなので作業の邪魔にもならない。
普通のテープよりも値段が高いのが、唯一のデメリットだろうか。お財布と相談しながら、最適なテープを見つけて欲しい。
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イラストは腕全体を使って描く!
デジタル絵描きの中には、手首のスナップをきかせて細かな線をサッサッと描くスタイルを好む人もいるかと思う。
だが、手首を使って絵を描くスタイルは負担が大きく、腱鞘炎を悪化させやすいので控えた方がイイ。自分が腱鞘炎気味になったのも、これが原因だと思う。
腱鞘炎になりにくい絵の描き方としては、手首を完全固定して、肘を支点に腕全体を動かす方法が挙げられる。これなら手首を痛める心配が無い。
長いストロークで綺麗な線を描ける、視野が広がり作画ミスに気づきやすくなるなど、他にも様々なメリットが得られる。慣れるまでが大変だが意識的にシフトした方がイイだろう。
《ストロークの長さは視野の広さ✏️》
— 下田スケッチ【絵の描き方】 (@simodasketch) 2022年2月25日
左 視野が狭い
右 視野が広い pic.twitter.com/335ZxX9DYD
ペンを強く握るクセがある人、筆圧が強めの人は、肩の力を抜きペンを軽めに持つ習慣を付けよう。
力が入り過ぎると手指を痛めやすく、腱鞘炎悪化に繋がるからだ。弱い筆圧で絵を描くよう心掛けて欲しい。日々の努力が大事になってくる。
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サポートグッズを活用!
デジタル絵描きの中には、日常的にPCを使っている人も多いかと思う。日々のデスクワーク・長時間のPC作業も、腱鞘炎を悪化させる要因の1つだ。
キーボード打鍵・マウス操作などのPC作業は、手首を起こす・捻るといった、不自然な体勢で行われる。コレが地味ながらも、手指に大きな負担をかけている。
対策としては、サポートグッズの活用が挙げられる。人間工学に基づいて設計されたPC周辺機器を使い、手の負担を軽減するのだ。
自分が普段デスクワークで重宝しているグッズは2種類。「エルゴノミクスマウス」と「リストレスト」だ。
まず「エルゴノミクスマウス」だが、コレは買って大正解だった。縦型で斜めにカーブした、奇妙な形状のマウスである。
このカーブ形状が重要で、手首を捻らない自然な状態を保ったままマウスを操作できる。操縦桿を握る感覚に近い。普通のマウスと比べて手が疲れにくく、腱鞘炎を予防する効果がある。
自分が愛用しているのは「サンワダイレクト 400-MA092」という製品。クリック音のしない静音タイプ。指が満遍なくフィットして握りやすく、十分な機能が揃っている。今ではコレ以外のマウスは考えられない。
3,000円弱と比較的リーズナブルな価格で、使い勝手・コスパ共に良好。エルゴノミクスマウスは種類が多過ぎて、どれを買えば良いか悩んでしまうが…コレを選べば間違いない。
もう一方の「リストレスト」は、机上に置く小型クッション。
腕の下に敷くことで、長時間のPC作業でも手首が疲れにくくなる。腱鞘炎予防にもピッタリ。
自分はマウスパッド一体型の「COMFYソフト」を使っているが…イラスト作業には不向き。絵描きがリストレストを購入する場合は、クッション単体の製品を探した方がイイ。1,000~2,000円で購入できる。
リストレスト買うのは面倒!という人には、タオルを折り畳んで腕の下に敷くのがオススメ。原理的には全く同じ。コレだけでも結構変わってくる。試してみよう。
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ストレッチ・湿布で入念なケアを!
長時間のイラスト制作は、ずっと同じ姿勢で作業するため血行が悪くなりがち。腱鞘炎の悪化にも繋がるので、作業の合間にストレッチを行い、全身のバランスを整えることが重要になる。
誰でも簡単にできるストレッチは、手をパーに開いて指を反らせる運動だ。以下の動画が詳しい。
絵描きが腱鞘炎になりやすいのは、ペンをずっと握って指を内側に曲げてばかりいるのも原因らしい。ペンを握る反対の動作…つまり、手指を逆に反らせる運動を行えば、偏ったバランスを戻す→腱鞘炎を予防することが可能なのだ。
以下のツイートで紹介されている「10秒バンザイ」ストレッチも、簡単に試せるのでオススメ。定期的に体を動かし、血行を良くしよう。
ずっと絵を描いてばかりでいると腱鞘炎になる恐れがあります。
— 絵師ぺディア (@illust_draw) 2016年3月22日
10秒間でいいのでバンザイをしましょう。
これだけで腕の血行を良くすることができるので、腱鞘炎を予防できます。 pic.twitter.com/YRCtwM6wBg
もし、絵の描き過ぎで手指に痛みが生じた場合は、湿布などの外用鎮痛薬を使って患部をケアすべし。薬局で売っている市販品を使えば問題無い。
一般に「急性の痛みは冷やす」「慢性的な痛みは温める」のが効果的だと言われている。
手の使い過ぎで炎症が起こり、腱鞘炎の初期症状 (キリッとした痛み・熱っぽさなど) を感じる場合は、冷湿布で患部を冷やすのがベスト。炎症の広がりを抑え、痛みを鎮めるのだ。
その後しばらくして、炎症が治まった段階では、温湿布や入浴で患部を温める方が効果的。体を温めて血行を改善することで、自然治癒を促進する効果が期待できる。状況に応じて使い分けよう。
それから肘を使って腕のツボを刺激する「1分間腕揉み」というマッサージがある。コレも腱鞘炎に効くらしいので、試して損は無い。下記リンク先から確認しよう。
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最後に
以上、デジタル絵描きが取るべき腱鞘炎の予防・対策記事でした。
手首がヒリヒリする、指が若干動かしづらい…といった初期段階の腱鞘炎であれば、今回紹介した対策で、痛みを緩和・コントロールすることが可能だ。是非とも参考にして欲しい。
ただし、腱鞘炎が重症化して、手が痛過ぎて動かせない!という事態になると、個人レベルの対策では手に負えない。整形外科や鍼灸院など、専門の医療機関での診療を強くオススメする。
かくいう自分も腱鞘炎が完治したワケではないので、他に良い予防・対策法が無いか、今後も模索を続けるつもりである。詳しい方がいれば是非、コメントで教えて欲しいデス…!